利用価値が少ない雑木をアップサイクル「アベマキ学校机プロジェクト」
「アベマキ学校机プロジェクト」とは
本プロジェクトは、岐阜県美濃加茂市の里山で群生する未利用樹種「アベマキ」を活用し、小学校の机の天板を製作する取り組みです。木材としての活用が難しく、地域の悩みの種となっていたアベマキを、子どもたちの環境教育と結びつけることで、里山整備と木育を両立させています。

プロジェクトの背景
美濃加茂市の里山では、かつて薪炭材として利用されていた「アベマキ」が時代の変化とともに使われなくなり、里山の放置により竹が生い茂ったことで林内の過密化や生態系への影響が課題となっていました。
2014年、当時岐阜県森林文化アカデミーの教員だった和田(ツバキラボ代表)が、地域資源を活用する教育実践を行うなかで、美濃加茂市農林課の職員からアベマキの問題を聞き、木材としての活用に向けた技術開発に着手。アベマキの乾燥過程で起きる反りや割れといった加工のハードルを克服するため乾燥実験に取り組みました。
木工用途として安定的に使える技術が確立し、当初は日用品や雑貨などへの活用案もありましたが、最終的には「地域の子どもたちが自然に触れ、学べる仕組みをつくる」という想いから、「アベマキ学校机プロジェクト」を提案・始動しました。

地域資源を活かす教育プログラムの設計
単なる物を作るのではなく、子どもたちが地域資源と関わりながら“学び、つなぐ”体験型の教育プログラムとして構成しています。
プロジェクトの流れ:
・小学5年生:アベマキの伐採を見学し、木の伐倒や製材・乾燥について学びます。
・小学6年生:天板の加工工程を体験。卒業時、自身が使ってきた机の天板を取り外し、新しく作ったアベマキの天板を取り付け、それを新1年生に贈ります。
・小学1年生:受け取った机を6年間使用します。
そして6年間使用した天板はブックスタンドに加工され、卒業記念品になります。
この流れを毎年実施することで、このプロジェクトは、里山整備・地域材の循環・子どもたちの環境教育を担っています。


成果と広がり
木育の意義や地域資源を活用した学びの構造が高く評価され、2015年にウッドデザイン賞優秀賞(林野庁長官賞)、2018年にキッズデザイン賞審査員長特別賞を受賞。現在は美濃加茂市内の3校で継続的に実施されています。
また、プロジェクトに参加した第一期生の中には、この体験を通じて里山への関心が深まり、森林に関わる学校に入学し、その後地元の森林組合に就職した例も出てきています。
美濃加茂市の担当者からは、「当初価値を見いだせなかったアベマキが、この取り組みを経て「価値あるもの」と認識されるようになりました。また、アベマキを市の里山千年構想の象徴として位置づけるきっかけにもなりました。そして地域の山で切り出した木が学校机になる過程を学ぶ体験を通して、林業の仕事や里山の大切さを子どもたちに伝えることができています。本物の木に触れることで、里山の価値がわかる人材を育成するこの事業を、今後も継続してほしいです。」という声をいただきました。
本プロジェクトを通じて、単なる製品づくりではなく、「地域の未来を育てる仕組みづくり」に貢献できたことを誇りに感じます。
プロジェクト概要
[Client]
岐阜県美濃加茂市
[stakeholder]
企画・ブックスタンドの加工/ツバキラボ
伐採/可茂森林組合
製材・天板製作/株式会社丸七ヒダ川ウッド
[実施期間]
2014年~(継続中)
[Movie]